恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



「さあ、遠慮しないで。ここは、もうあなたの家みたいなものなんだから」


母親からも促されて、真琴は靴を脱ぎ、高い段差を上がって畳に足を付けた。


「それじゃ、私は田んぼに戻るから。…ゆっくりして行って」


晶はそう言って真琴に極上の笑みをくれると、土間を出て行く。

真琴は晶にお礼を言おうと思ったが、古庄の両親はその猶予も与えず、真琴の腕を引っぱって屋敷の奥へと連れて行った。


見た目も大きな屋敷だけあって、内部もとても広い。
縁伝いの廊下を歩きながら、家の中でも迷子になれそうだと真琴は思った。


屋敷の北側にも土間があり、そこには土づくりの竈(かまど)やポンプの付いた井戸があった。その土間から上がった所には、10人以上で囲めるくらいの囲炉裏がある。…さすがは「文化財」になっている住宅だ。


しかし、台所は土間ではなく、現代的なシステムキッチンが設えてあった。
居間はその南隣、年季の入った立派な彫刻のある座卓が置かれ、大きな窓からのどかな風景が見渡せる場所だった。



「ご連絡もせず、突然押しかけてしまって、ご迷惑をおかけします」


座卓に着く前に、真琴はきちんと正座をし、再び深々と頭を下げた。


失礼があってはいけないと、真琴の神経はピリピリと研ぎ澄まされている。


「なあに、迷惑なんかじゃないよ!」


「そうよ。そんなに緊張しないで、楽にして」


「いや、そんな風にちょっと緊張してる真琴ちゃんも可愛いなぁ…」




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