彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)
「お邪魔します!凛です!」
熱くなる顔と心で店内を見渡す。
「瑞希お兄ちゃん!」
いた!
カウンターに腰かけて、頬杖ついてる!!
「瑞希お兄ちゃん!」
彼へと駆け寄って名前を呼ぶが―――――――
「瑞希お兄ちゃん?」
「・・・。」
返事が返ってこない。
(・・・・・え?無視?)
急激に不安になる。
「み、瑞希お兄ちゃん!お兄ちゃんてば!」
呼びながら、その顔をのぞき込む。
ぼんやりと視線はどこを見ているかわからない。
私の声に応じず、何を考えているかわからない顔。
完全な無表情。
「瑞希お兄ちゃん・・・・?」
ゾクリと、鳥肌が走る。
「瑞希お兄ちゃん!!」
嫌な予感に、思わず大声が出た。
「え!?あ・・・・凛!?」
私の叫び声で、やっと彼は私を見た。
ひどく驚いた顔と声で私を見ながら言った。
「おま!?いつの間に来たんだ!?マジで、忍者だな・・・」
「何言ってるんですか?ずっと、呼んでたじゃないですか・・・!?」
「あ・・・そうなの、か。わりぃ・・・・」
「・・・いいえ、それはいいですが・・・・」
(なんか、瑞希お兄ちゃんらしくない・・・)
「瑞希お兄ちゃん、何かあったんですか?」
そう聞かずにはいられないくらい、いつもと違う彼。
「いいや・・・なんでもないんだ、凛。」
私の問いに、わかりやすいぐらい作り笑いで返事する瑞希お兄ちゃん。
「よく来てくれたな?何飲む?飯は食ってきたのか?」
「え?お店は・・・?」
「ああ・・・今日は開けないんだ。」
「?そうなんですか・・・」
元々、不定期でしているお店。
店主である瑞希お兄ちゃんがそう言うなら、今夜はclose。
「凛、ココア飲むか?マシュマロ乗せてやるから。」
「じゃ、じゃあ、お願いします・・・」
「美味いのを、飲ませてやるからな。」
そう言って、私の頭をなでてからキッチンへ移動する。
カウンターの正面にある対面式なので、瑞希お兄ちゃんの様子を座りながら拝見できる。
彼が作業するのをよそに、もう一度、目だけで店内を見渡す。
(今夜は、瑞希お兄ちゃんだけ・・・?)
「あの~他の皆さんは?」
「あ?あー・・・ああ、そうだな・・・・。みんな・・・ヤボ用で、外出中~かな?」
歯切れの悪い返事。
(なんだろう?)
彼から感じる違和感に気持ちがゆれた。