幼馴染みはイジワル課長
天気もすごくいい春の陽気に、墓地の近くに咲く桜がとても綺麗。





「久しぶりぃ」


梨絵の墓の前まで来ると、私は明るい口調でそう挨拶した。



ここに来ると今はホッとする…

幼馴染みの梨絵に会えるから…





「…で?梨絵に近況報告は?」

「あ、えっと…」


最近では、こうやって梨絵に向かって碧とお互いの近況を報告するのがお決まり。





「あ。歩未ちゃんがね~この前フードコーディネーターの資格を取ったの!あと部長と同棲を初めて…それと部長も新しい事業始めたんだよね?」

「おいおい。それってお前の事じゃなくね?」


花の長い茎を切りながら、私に突っ込みを入れる碧。





「い、いいの!私の身近な人の報告もちゃんとしたいの!」

「はいはい」


花を備える碧を無視するかのように、私は墓石に水をかけながら続けた。





「あと…杏南に子供ができたんだよ♪」


杏南は以前から交際していた彼氏の間に、つい先日赤ちゃんを授かった。

私のことばかり心配してくれた杏南が、幸せになってくれて本当に嬉しい。






「だから自分の報告は…?」

「うーん…特に変わりなしです。仕事もまだまだだし…」


私のその言葉に碧はハハハと笑う。





「碧は?自分の近況報告ないの?」


私のことばっかりバカにしてるけど…自分はどうなのよ?





「そうだなぁ…俺は…」


墓の両側に花を備えると、碧は袋からシャンパンを出した。



「ええ!シャンパン!?そんなの買ってたの?」

「ああ。さっき花と一緒に買った…」


碧は次に袋から紙コップを出すと、私に1つ差し出してもう1つを梨絵の墓石に置いた。





ポンッ


手馴れた手つきでシャンパンの蓋を開けると、墓地にポンッという音が響き渡り…碧はそのままそれぞれの紙コップにシャンパンを注いで、一度下の地面に置く。

自分の分のシャンパンをつぎ終わると、碧は私を真っ直ぐ見つめる。不思議に思っていると、碧はポケットから小さな箱を出した。






「これ…」

「え…」


小さな箱を開けると、そこにはシンプルできれいなシルバーの指輪が2つ入っていた。




「碧…」


顔を上げて見上げると、碧は優しく微笑んで指輪を1つ手に取ると私の左手を握りそっと上に持ち上げた。





「もうわかるよな。結婚指輪だよ」

「う、ん…」

「婚約した時は家の前だったから、次は梨絵の前で言おうって決めてたんだ」

「うん…」


私の目から涙が溢れたと同時に、碧は私の左手の薬指に指輪をはめた。

薬指には元々婚約指輪のダイヤの指輪がはめてあり、私の左手の薬指には宝物の指輪が2つになった。





「そろそろ籍を入れよう」

「はい…」


婚約してすっかり結婚したみたいな気でいたけど、まだ戸籍上は他人なんだもんね。

同棲もしてるし…なんだかなあなあになっちゃってたことを、碧も気づいてたのかな…だからこんなサプライズをしてくれたんだ…





「俺のもはめて」

「あ、うん」


箱に入ったもう一つの指輪を取り、私は碧の大きな左手の細くて長い薬指にやや緊張しながらはめた。







「桜花。愛してるよ」

「私も」
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