幼馴染みはイジワル課長
碧がレバーを調整すると、シートは楽な体制で寄りかかれる角度まで倒れる。




「ありがとう…」

「…ん」


碧は運転席に座り直しまたシートベルトをつけた。渋滞でしばらく止まっていた前の車が動き始め、私達の乗る車もゆっくりと動く…



び、びっくりした…

一瞬だったけど、あんな体制で碧を見るの初めてだったし…今日は色々あったけどすごくいい日だな。





「今日…仕事終わったら何か予定ある?」


片手でハンドルを持って運転しながら碧は、ボソッとそう言った。




「特に予定はないよ」

「…そうか。お前さえよければ今夜飲みに行かないか」

「えっ…」


若干シートが倒れているにも関わらず、私は思わず体を起こしてしまった。




「酒も料理もうまい店があるんだ。多分もお前も気に入ると思うんだけど…」

「行く!行きたい!絶対行く!!」


嘘みたい…!今夜碧と飲みに行けるの?これは夢なのかな…




「今日は頑張ったから褒美をやるよ」


そう言うと、碧は優しく微笑んで私の頭をポンと撫でた。




やっぱり…今日はいい日だ!












18時過ぎ。私はオフィスの1階のトイレの個室に戻り、メイクを必死で直している。

会社が引ける時間を少し過ぎた時、まだ仕事が残っている課長の仕事を少し手伝い、気がつくと18時近くになっていた。



「10分程で行くからロビーで待っていろ」


課長にそう言われた私は、今は昼間泣いて半分以上とれたメイクを再生している途中。腫れていた目もなんとかメイクでごまかせる事ができて、私は緊張しながらトイレを出る。



これって…デート……ではないよね。

上司と部下がただ仕事の帰りに飲みに行くだけ…それだけなんだよね。勘違いしちゃダメだよね…


ロビーに行くとまだ碧は来ていなくて、オフィスに残ってる社員達ももう少ないのか、エレベーターも動かす止まったまま。

私はエレベーター近くの壁に持たれかり、碧も待つことにした。がらんとしていてすごく静かなロビーにいるとより緊張が増す気がしてくる…



だけどこの緊張感はいつもと違う…胸が締め付けられそうになって、どこか落ち着かなくて…ソワソワしちゃう。


好きな人とこれから出かけるっていう女の子はみんなこんな感じになるのかな…

待ち合わせしてる時ってこんなにドキドキするの…?こういうの経験ないからわからない…初めての…感覚…





ガコン…


二台あるエレベーターの一つが動き始め、階を表示しているボタンがどんどん下へと動いて来る。私はそのエレベーターをじっと見つめ扉が開くのを待った…





ガコン……



ゆっくりと開いたエレベーターの扉から、ネクタイを緩めながら出てくる碧。その姿は…本当にかっこよくて世界一じゃないかってくらいに思えた。




「碧…」


髪を耳にかけやや俯きながら碧に話しかける私。




「まだ課長って呼べ」

「あ…」


そっか。ここはロビーだけどまだ会社だったね…



「ごめんなさい…」

「行くぞ」

「は、はい!」


先を行く課長を追いかけて会社を出た私達は、あまり会話をすることなく会社の最寄り駅にやって来た。




「地元の方だから一度電車に乗るぞ」

「はい!」


帰宅ラッシュで人混みが多い中、私と碧は電車に押し込まれるように乗り込んだ。


う…今日はいつになく混んでるな…電車通勤はこれだから嫌だ。




「こっち」

「へ?あっ…」


電車が動き始めると碧が私の手を引っ張ってドア側に追い込んでくれて、碧はドア側を背にしている私の目の前に立つ。

混んでいて仕方が無いが碧との距離がかなり近い…しかも向かい合っている為抱きしめられていわけじゃないのに、そんな錯覚に陥られドキドキしてしまう…

恥ずかしいからドア側に向きたいけど、ここで後ろを向いたら感じ悪いし、それにこれだけ混雑していたら体を動かすことも不可能。




「ど、どこで降りるの?」

「K松町」


平然を装いなるべく普通しようと声を震わせながらも目の前にいる碧に話しかける。碧は冷静な顔をしていて至って普通に振舞っている様子だ。


K松町は地元の最寄駅の一つ手間の駅。

あと3つ…



ガタン…

ぎゅう……



「ぁ…」


走っている電車が突然揺れて碧が私に覆いかぶさって来る。


や、ヤバイっ……恥ずかしいよ…




「苦しいか?」


恥ずかしくて俯いていると、碧が私に声をかけてくる。



「だ、大丈夫大丈夫!」

「潰しちゃいそうだな…お前小さ過ぎんだよ」

「なっ…そっちが大き過ぎるんでしょ!」


180cm余裕で超えてるから満員電車でも涼しい顔しちゃってさ!
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