幼馴染みはイジワル課長
「ちょっとごめん」

「なっ……」


そう言うと碧は私の背中に手を回しひょいと軽く持ち上げた。私の足は少しだけ宙に浮き、さっきよりも碧との目線が高くなる。




「ちょっと降ろしてっ!!」

「大きい声出すなバカ。次の駅でほとんどの奴らが降りるからそれまでの我慢だ」

「う…」


次の駅まで待てって言ったって…これじゃあ本当に抱きしめられてるのと一緒じゃん!

次の停車駅までの時間はあっという間だったけれど、私にとってはすごく長く感じた。碧の言う通り次の駅ではほとんどの人が降りていき碧は私そっと離し、椅子には座れなかったがなんとかゆとりを持って電車に乗れる。



はぁ…心臓が持たない…

このまま碧といたら本当に死ぬかも…




「お前…いつも満員電車で帰っててよく無事だな?チビだから埋もれるんじゃないか?」


手すりに捕まりカバンを持ち直すと、真面目に心配そうな顔をして言う碧。




「チビじゃないです!埋もれはしないけどやっぱり満員電車は辛いよ…だから
たまに歩未ちゃんとわざと会社の近くで飲んでから帰るんだ。7時過ぎれば電車も空いてるし」

「…でもそれだと夜遅くなるから危ないな。お前んち駅から少し歩くし…」


私はまだ実家暮らしで碧の実家からも近い為、当たり前だが碧は私の家の場所を知っている。

窓の外に目を向ける碧の横顔はすごく真剣で、私を心配してくれているんだろうか…そう受け止めていいのかな…




「飲んで帰るのはいいと思うけどあんまり遅くなるようなら駅からタクシーで帰れよ。それか俺に連絡してくれればいつでも送っていってやる…家にいればの話だけど…」


碧はずるい…幼馴染みだからってまるで恋人に言うみたいなことを言って来る……




「連絡先…知らない」

「え?」


碧から目をそむけ顔を隠すように髪の毛を手でとかす。


碧がそういうこと言うと勘違いしそうになる。だからわがままになったり、いつも余計な事まで言ったりしてしまう。





「碧の連絡先知らないよ私…」


梨絵が亡くなる前までは知ってはいたけど …その後携帯を変えて番号が変わってからはずっと聞いてもないし教えてもいない。




「後で教えるからお前のも教えて」


ずっと霧がかっていた心が晴れたみたいだった…

梨絵が亡くなって離れていた碧との距離が、段々縮まっていってるんだろうか。

もう一度子供の頃のようになれるかな…そうしたら私…碧に好きって言いたい。そしてきっぱり諦めたい。そして改めて幼馴染み同士に戻れたらいいな…






「いらっしゃいませ」


K松町に着くと碧は駅の近くのBARに連れて行ってくれた。店内に入るとそこはカウンターと2人掛けのテーブルが4つに、奥に4人掛けのテーブルが2つ。壁がワインカラーの色で統一されていてすごくオシャレだ。

テーブル席は全て埋まっていたので、私と碧はカウンターの一番隅の席に座った。すると、カウンターからヒゲをはやした強面の男性が顔を出す。




「碧ちゃんが女の子と来てる~♡仲間にLINEして報告ちゃおっかなー」

「殴るぞ貴文(たかふみ)」


スーツを脱いでハンガーにかける碧は、そのバーテンさんを見ることなく低い声で言った。



今、貴文って言った?

ってことは…知り合い??




「ったく冗談が通じねえな碧は!ねえ桜花ちゃん?」

「え、あの…私のこと知ってるんですか?」


私はあなたのこと知らないですけど…もしかしたら昔会ったことあるかもしれないと思ったけど、貴文さんの顔をよく見てもやっぱり見覚えがない。





「うん!よーく知ってるよ。昔からね」

「昔から…?って…」

「しゃべり過ぎだ」


カウンターの椅子に座り貴文さんを睨む碧はネクタイを外していて、ワイシャツの一番上のボタンを開けていた。





「ちょっとくらいいいじゃんね~ねえ桜花ちゃん?」

「は、はい…」


貴文さんて、見た目よりも話しやすいし明るいなぁ…話し方とかもかわいいし。




「喋ってないで働け!」

「いてっ」


すると後ろからきれいな女性が突然現れると、怖い顔をして貴文さんを叩いた。



きれいな人だなぁ。色白の肌にきれいでつやつやの明るいショートヘア。唇がぷっくりとしていて口元にあるホクロがすごく色っぽくて、大人の女性さを漂わせている。
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