音楽が聴こえる
あたしの意地の悪い言い方に、シュウは唇を噛み締めて下を向いた。

「……デビューしたかったんだ」

『infinity』にデビューの話しが持ち上がった時
、あたしには、まだ一年以上も大学が残っていて当然如く、父は猛反対だった。

一方、私以外のメンバーは皆年上で、自分達自身の生活のために会社員やフリーターになることを、余儀なくされていた。

夢を追えるか終えるか、ギリギリの時期に差し掛かっていたんだと思う。

バンドをスカウトした事務所は、シュウの歌声を気に入っていたし、華やかな悟のギターも、堅実な尚人のベースも、骨太なダイちゃんのドラムにも大いに期待していた。

でもその頃の私は、キーボードやバックコーラス、たまにはツインヴォーカルで、と良く言えばフレキシブル、悪く言えば節操なしの何でも屋的なメンバーで。

向うサイド的には、さほど欲しい人間では無かったようだ。

寧ろシュウと付き合っていた分、マイナス要因と思われても仕方が無い。
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