音楽が聴こえる
……眼鏡外したっけ? ああ。
シュウに外された後、面倒臭くなってトートバッグに入れっぱなしにした筈。

「バッグの中」

「……ありゃーシュウの好みじゃねぇもんな」

訳知り顔で頷く悟の無神経さに腹が立った。

「そんな話ししてない。話しを逸らさないで」

「逸らしてねぇし。未練って何だよ」
「バンド。あんな辞め方で後悔してないの?」

「お前、今更だろ。何年前の話ししてんの」

悟は喉の奥から小さな笑い声が漏らし、Tシャツを離さないあたしの手を包み込んだ。

「……何年経っても、変わらないことだってあるでしょ」

「そうだな」

握る手の力強さは、否定なのか肯定なのか。

ちゃんと考えようとした筈なのに、いつの間にか組み伏せられた状態になっていて。

そのことに気付いたあたしは、些か恥しさを覚えて目を伏せた。

「あ、お前。今、やらしいこと考えたろ」

顔を近付けて来た悟からアルコール匂いキスが落とされた。

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