甘いヒミツは恋の罠
(だめだ……)


 数回コールをしてもやはり出ない。あともう一回コールして出なかったら今日はもう電話をかけるのをやめようと何度も思い、そして思い返す。


 すっかり日も暮れ、紅美は会社を出て駅に向かった。行き交う人々は寒さに身を縮めながら足早に歩いている。


 プルルルという機械音を何度今日は聞いただろう。肩を落として諦めようとしたその時だった――。


『な……んだ』


「朝比奈さん!?」


 まさかの返答に紅美は思わず声をあげて立ち止まった。


『耳元で……大きな、声……出すな馬鹿』


「朝比奈さん?」


 様子が変だ。声もかすれてよく聞き取れない。
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