甘いヒミツは恋の罠
 神楽坂涼子はかつて世界でも一世を風靡した人気デザイナーで、人気絶頂だったある時、忽然と会社を畳んで姿を消してしまった。


 それから数十年経ち、世間では神楽坂涼子の存在すら忘れ去られていったが、宝飾業界や資産家の間では年をかさむ事に神楽坂涼子がデザインしたものの価値が高騰していった。


「あのネックレスは私もどこかで見覚えがある。けど、当の本人はその価値に気づいてないんだろう?」


「だからいいんだよ。知らぬが仏っていうだろ? あの女を手に入れるということは、あのルビーも手に入るってことだ。けど……大野のやつもきっと同じように狙ってるはずだ」


 忌々しそうに言うと、朝比奈社長は重くため息をついて静かに言った。


「お前のやろうとしていることは、絵里と同じだぞ?」


「……なんだって?」


“絵里”という名を聞いた朝比奈の表情が、険しく冷たいものにさっと変わる。


「いくら兄貴でも、その名前を今度口にしたら容赦しない」


「そんな怖い顔するなって、悪かったよ……」


 暴れだしそうな猛獣を宥めるかのように朝比奈社長が言うと、朝比奈はふんと鼻を鳴らした。


「じゃあ、企画書の件、もう一回目を通してくれよ。俺は帰る」


「あぁ、わかった」


 朝比奈は、雲行きの怪しくなりかけた雰囲気を振り切るように部屋を後にした――。
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