甘いヒミツは恋の罠
「ごめんなさい、やっぱりもう少し仕事していきます」


「そうですか、あまり無理しないでくださいね。じゃあ」


 結衣の背中を見送りつつ、紅美はため息をついた。


 不遜で傲慢な中にも優しい部分があることを知ってしまった。だから完全には嫌いになれなくて朝比奈といると、振り回されているような気分になる。しかし、紅美の胸の中にはずっとひとつ気になることが引っかかっていた。


(朝比奈さんの婚約者……か)


 朝比奈のデザインしたアクセサリーは年間を通して不動の人気を誇っている。そんな中で、指輪のデザインだけがないというのがある意味大きな欠点だった。


(指輪のデザインをして欲しいなんて、私なんかが頼んだって無理だよね……)


(それに私、自分の上司の顔殴っちゃったんだから謝らないと……)


 そんなことを思いながら、いつもの暗い廊下を通って店長室のドアをノックした。


「すみません、皆本です」


 店長室に行くのはいつも決まってこのくらいの時間だ。


 朝比奈もそれをわかっていていつも部屋にいるはずだが、今日に限って部屋の中から返事がなかった。
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