冷たい上司の温め方

出勤簿には、定時で帰っていることになっていた楠さんが、実は毎日遅くまで残業していることを、笹川さんから聞いた。


リストラのための面接が、就業時間後、他の社員には秘密で行われていた。

どうしてリストラの対象になっているのか、じっくりと説明してわかってもらうのだとか。
だからひとりの人に何度も、そして、何時間もかけているらしい。


私は立ち会ったことはなかったけれど、大変な作業のようだ。
もちろん、楠さんのほうもストレスを感じているに違いない。


楠さんの家は、店からタクシーで二十分ほどだった。

料金を払おうとすると、内ポケットからさっとお金を取りだして、私に一万円を握らせる。
体調が悪い癖に、気遣いを忘れない。


「悪かったな。足りない分はまた払うから、このまま乗って行け」


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