冷たい上司の温め方

「長い目で見て、素晴らしい社史ができれば、他に言うことはありません。
加納部長なら、必ず良いものを作ってくださると期待しています。
異動は引継ぎが済み次第、お願いします」


楠さんは立ち上がって部長に頭を下げ、会議室を出ていく。


あまりにあっけない通達に驚いている私は、立ち上がることすら忘れ、ただ部長の姿を見つめていた。

笹川さんは、「こちら、辞令です」と書類を部長に渡している。
すると、部長が突然声を震わせた。


「クビも覚悟でした。それなのに……」

「奥様、大変なんですね」

「……はい」


潤んでいた部長の目から涙がこぼれた。
どうしたというの?


「末期ガンで、長くて一年と言われています」

「えっ!」


私の声に部長は小さく頷いた。
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