冷たい上司の温め方
メガネのフレームをあげた楠さんは、それきり私を見ることはなく、タクシーは発車した。
「いつでも飛ばしてやるって……」
酷い言葉の様だけど、本当はそうじゃない。
『ここに連れてきたこと、少し後悔してます』『麻田には辛いかもしれません』という遠藤さんと楠さんの会話を思い出していた。
楠さんって、すごく繊細な人なんだろうな。
それに……今日の飲み会が、やっぱり私の仕事を評価してくれてのことだったとわかって、うれしくなった。
まぁ、言いたいことを言っただけで、楠さんの言うとおり、胸を張って"仕事をしました"というほどのものではないけれど。
「楠さんが飛ばすって言ったって、しがみついてやるわよ」
なんだかんだ言ったって、三課が嫌なわけじゃない。
誰かがやらなければならない仕事だと良くわかったし。
それに……辞めたりしたら楠さんに負けるみたいでイヤだから。