冷たい上司の温め方

「だけど、楠さんが相手じゃ、俺は到底敵わないと、思ってもいた」


私は思わず顔を上げた。


「楠さん、絶対に麻田さんのことが好きなんだと思ってたから」


笹川さんが少し項垂れて、苦笑いしている。


「そんなこと、ありえません」


楠さんが私を好きだなんて、きっとない。
ふたりでデートもどきなこともしたけど、あれは私が無理やり誘っただけだ。


「だけど、楠さんは麻田さんが三課に来てから、変わったんだ。
それまでロボットみたいに表情を崩すことなく淡々と仕事をこなして、俺以外の人は誰も近づけなかった。
だけと、麻田さんが来てから、人間らしくなったというか……」


笹川さんはなにかを思い出すように視線を宙に舞わせる。

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