冷たい上司の温め方
部屋の呼び出しボタンに何度も手を伸ばしたけれど、どうしても押すことが出来ない。
もう帰ろうかと思ったとき、入り口から見えるエレベーターから人が降りてきてハッとした。
楠、さんだ。
私は思わず逃げ出した。
やっぱり無理だ。
先週までとは違う。
気軽に「お弁当ですよ」なんて言えない。
だけど……。
「わっ。イタッ」
マンションのエントランスを出たところで、階段を一段踏み外し、派手に転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
そんな私に駆け寄ってくれたのは、楠さんだ。
「麻田?」
「……はい」
どうしてドジを踏んでしまうんだろう。
楠さんの前では転んでばかりだ。
「お前、どうして?」
「あの、お弁当です」
恥ずかしくなった私は、彼にお弁当の入ったバッグを差し出すと、「それでは」と立ち上がって走り出そうとした。