冷たい上司の温め方

楽しそうに話す遠藤さんに、嫌だなんて言える雰囲気ではない。


「はい、これ。とりあえず、玄関の掃除から始めましょうか」

「わかり、ました」


大きなモップを手渡されて、思わず受け取ってしまった。

もう、仕方ない。
こうなったら、やるしかない。


地下から職員用のエレベーターに乗って一階に上がると、そこは目映い世界だ。

さっきは初めての訪問で周りを見渡す余裕はなかったけど、まるでドラマに出てくるような世界だった。


忙しそうに隣の人となにかを話しながら、玄関へと向かう人。

商談にでも向かうのだろうか。
ちょっと険しい顔だ。

そして、胸には社員用のIDをつけ、背筋を伸ばして颯爽と歩く人。

ゼロハリのビジネスバッグを持って、ピカピカに磨いた靴を履いて……。

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