冷たい上司の温め方
「そうね。皆ビシッとスーツを着て颯爽と歩いて。そんなのに憧れるわよね。当たり前よ」
笑う時にできる目尻のシワが、遠藤さんの表情を一層柔らかくする。
「でも、その中でひとりでも私達の仕事を評価してくれる人がいれば、私はそれでいいと思ってるの。
それが楠君だったのよ」
「楠さん?」
遠藤さんは大きく頷いた。
「彼は、ここに入社してからしばらく、就業後に私達の手伝いをしてくれたの。
もちろん彼のいるフロアだけだけど、それでもそんな人初めてだったから驚いてね」
楠さんが掃除を?
そんなこと絶対にしそうにない人なのに。
「ワイシャツをまくり上げて、ごみ箱を片付けてくれたり、一緒に掃除機までかけてくれて。
どうして手伝ってくれるのかって聞いたら、『僕は人事ですから、どんな仕事も知っておきたいんです』ってね」