それでもキミをあきらめない

 
高槻くんは表情を変えないまま、まだ遠い、と言うように手招きをした。

広い胸の前でゆっくり上下する手のひらに、引き寄せられるように近づいた。

お互いがまっすぐに手を差し出せば、指先が触れ合うであろう距離。

こんなに近くに立つのは、ペンケースを拾ってもらったとき以来だ。

そんなに遠くない過去の記憶が、目の前の光景と重なるようにして思い出される。
 
遠くから見ていられれば満足だった高槻くんが、わたしの正面に立って、わたしの輪郭を目に映している。
 
一生のうちに何度か起こる、数限られた奇跡を、わたしは短期間で2回も使ってしまったのだ。
 
こんな機会はきっともうない。
 
だから、間近で見る彼の姿を、目に焼き付けようと思った。
 
そのとき。


「小塚奈央」


フルネームを呼ばれて息をのんだ。
 
三度目の奇跡。
 
そして。


「ずっと好きだった。付き合ってください」
 

わたしの目をまっすぐ見て、高槻くんはそう言った。

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