それでもキミをあきらめない
入学して、はじめて廊下で彼の姿を見たときから。
高槻くんはわたしにとって特別だった。
わたしのなかでずっと眠っていた感情が、彼を一目見ただけで急に呼び覚まされたように。
それはまるで、はるか昔に置き忘れてきた大切な心のカケラを、おもいがけず拾い上げたような気持ちだった。
掃除当番の朝子と別れ、いつもの階段を降りる。
毎日ステップを踏みながら一日が無事終わったことにため息をついていたのに、今日はため息どころか鼻歌を口ずさんでる。
地球の重力は感じるようになったけれど、それでも月面に立ってるように体が軽い。
気を抜くと、飛んでいってしまいそうだ。
下校する生徒たちの明るい顔を、穏やかな気持ちで眺めながら靴箱の蓋を開けたときだった。
「俺さっき見ちゃったよ。レオ、やるなお前」
聞き覚えのある声が、向こう側から聞こえてきた。