それでもキミをあきらめない
「いや、俺と同じ血を引いてんだから、ちゃんとすりゃなんとかなるはず。やっぱお前がブサイクなのはお前のせいだ」
春から金に近い茶色に変わった髪と、平たいプレートがくっついた、やたらと鎖の長いネックレスと、去年まではクロゼットに並ぶことすらなかった、襟付きのこじゃれたシャツ。
得意げな兄の姿に、目の前が真っ赤になる。
「うるさい、ばか!」
「……おい、年上に向かってそんな口の利き方していいと思ってんのか」
指の関節を全部曲げた、悪魔みたいな形の手がわたしに伸びて、とっさに首を縮める。
そのとき、リビングの大きな窓が開いて、のんきな声が聞こえた。
「あら奈央、帰ってたの」
干していた洗濯物を両手いっぱいに抱えたお母さんが、わたしを見て笑みを消す。
「どうしたの」
「なんでもないっ」
兄を突き飛ばすようにして、わたしは急いで階段を駆け上がった。