幸せにする刺客、幸せになる資格
「あんな感じとは?」
『何か、ちょっと、いやかなり、壁を作っているって言うか…兄は誰にでもフレンドリーで気さくで、優しい人のはずなのに、山形さんには突き放すような態度で…』

紗英さんは申し訳なさそうな顔をした。

「多分、私がフランクになり過ぎて、ノリさんが引いてしまったんだと思います」
『そんなのあり得ないです、兄に限って』
「なら、ここに来てから変わってしまったのではないでしょうか」

慣れない土地で、どんな人間がいるか分からない環境の中、虚勢を張っているのかも知れないし。

『それも違うでしょう。現にあなたは兄のことを"ノリさん"と呼んでいるくらいですから、初めはフレンドリーだったんじゃないですか?』

図星だ。

「それは…今思えばそうだったかも知れません」

私は曖昧な返事をした。

『兄は、きっとあなたに心を開くのが、怖くなったのかも知れません』
「怖くなった、ですか?」
『大変申し訳ないのですが、辛抱強く兄と関わって頂くことは可能でしょうか』

紗英さんからのお願いは、妹としていつも一緒にいてあげられない歯痒さもあるのだろう。

妹さんの頼みがなくなって、尊敬するノリさんの役には立ちたい。

『今、お会いしたばかりですけど、あなたなら兄を前に進ませることが出来るような気がするのです』
「ありがとうございます。あっ」

私は、営業職としてやるべきことを忘れていた。
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