幸せにする刺客、幸せになる資格
「あの…私、こういう者です」

と、名刺を渡した。

『亜香里さんとおっしゃるんですね』
「はい」
『私、明日の午後2時頃まではここにいますから、その間にぜひまたいらして頂けると嬉しいです』

紗英さんによれば、明日のその時間に、この界隈を出張営業で回っているご主人が迎えに来るらしく、それまでの摘果作業の手伝いらしい。

私は翌日の午後、紗英さんが帰る頃に合わせてノリさんのりんご園を訪れた。

蜂矢のお爺ちゃんが見守る中、紗英さんも果実をハサミで間引く作業をしているのが見える。

それでも、紗英さんは背後にいた私に気づいてくれた。

「いかがですか?作業は」
『蜂矢さんに教えて頂いて、何とか猫の手ぐらいにはなっているかな、と思います』

すると、そのやりとりに気付いたノリさんが、私達に近寄ってきた。

『あ、山形さん、今日はどのようなご用事ですか?』
『用事がなくちゃここに来てはいけないような言い方よね。今日はね、私が呼んだの』
『お前が?』
『いいじゃない。農協の担当って老若男女いるのに、その中でも亜香里さんのような可愛い女性が担当なら、お兄ちゃんはラッキーだよ』

紗英さんは持論を展開するけど、ノリさんは明らかに不満そう。
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