幸せにする刺客、幸せになる資格
『山形さんだってお忙しいんだから、いちいち呼びつけるなよ』
「いえ、とんでもないです」

私は手を振って否定した。

「私達外販課は、摘果作業を見て回ってそこで今年のりんごの出来の手応えとか伺うのも重要な仕事ですから。呼ばれなくても、勝手に各園を回っていますし。だから呼ばれたら、尚更必ず伺います」
『ふぅん。暇なんですね、農協の人って』

ノリさんは冷めた口調で言う。

『ちょっとお兄ちゃん、失礼でしょ!』

紗英さんは慌てた。

『亜香里さん、ごめんなさい。こんな兄ですけど、よろしくお願いします』
「いえいえ、こちらこそお世話になっているのに・・・」

すると、少し離れたところから、車のエンジン音がした。

『あ、誠(マコト)だ。おーい、こっちだよー』

紗英さんは大きく手を振った。

スーツ姿の男性は、小走りでこちらにやってきた。

『ご紹介します。私の旦那さんで日下誠。龍成社で書店向けの営業をやっていまーす』
『おい、俺の口から言わせろよ』
『ごめんごめん』

年の頃、30手前ってところかな。
面長で、誠実そうな人だ。

『はじめまして、兄の徳文です』
『会いたかったですよ、ノリフミさん』
< 13 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop