幸せにする刺客、幸せになる資格
でも、それは僕が決して感じてはならないもの。

僕は、何のためにここ安曇野に来てりんご園を引き継ぎ、大和を育てているのかが分からなくなってしまう。

そんな自分が目の前の亜香里さんに染まっていくのが怖かった。

『ワシが亜香里さんを呼んだ』

蜂矢の爺ちゃんが俺にそう言った。

『ノリ、人の親切を無駄にするようなことをしてはならんぞ。収穫はタイミングが命じゃ。人手はいくらあっても良いものであって、半人前のお前が断るなんぞ10年早い!』

久し振りに爺ちゃんに怒られた。

思えば、このりんご園に来たばかりの頃は怒鳴られない日はなかった。

りんご園のことだけではない。
日常の生活に至るまで。

"これだから都会育ちで苦労知らずのボンボンは使えない"と口癖のように言われ続けた日々。

子育てだって大変。
だけど…大和の存在が僕の疲弊した心を癒してくれた。

だからここまでやってこられたし、これからも続けられる自信がある。

「分かったよ爺ちゃん。山形さん、よろしくお願いします」

人として、良くない対応だとは分かっている。
彼女だって決して居心地は良くないだろう。
でも嫌な顔ひとつせずに収穫を手伝ってくれた。
翌日も1日中。
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