幸せにする刺客、幸せになる資格
救急箱は常備している。
大和がしょっちゅう擦り傷作って帰ってくるから。

亜香里さんをソファーに座らせ、消毒をする。

『痛っ!』
「滲みるね。亜香里さんは大人なんだから、少し我慢してね」

近所の子にもこうやってよく手当てをしているから、同じ調子になっていた。
でも、痛みに顔を歪める彼女の顔は、間違いなく子供のそれとは違う。

その表情を見て、僕は自分の気持ちがどこにあるのかに気付いてしまった。

痛みの原因を作っているのは僕。
彼女の顔を歪ませているのも僕。
誰でもない、僕が彼女の今の表情を作っているんだ。

でも今度はこんな顔ではなく、笑顔が欲しい。
僕のための笑顔が、猛烈に欲しくなった。

しばらくすると痛みに慣れたのか、落ち着いてきたようだ。

『ノリさん』
「はい」
『私、ノリさんに嫌われているかと思っていました』

彼女がそう思ってしまうのも無理はない。
明らかに、出会ったころとは態度が変わってしまったから。

「ごめんなさい」
『いえ。でもこうやって怪我の手当てをしてもらえただけでも、嬉しいです。私のような、要領悪くて可愛げのない女に対して、嘘でも親切にしてもらえただけでも・・・』
「そんな、自分を卑下しないでください」
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