幸せにする刺客、幸せになる資格
それから、1月から2月にかけての剪定作業を終えて、僕は久しぶりにスーツを身に纏った。

土曜日。
僕は亜香里の家に挨拶へ行く。

大和は相変わらず近所のダイちゃんの家に遊びに行くらしいけどスーツを着た僕には"頑張ってね"というひと言を貰った。
今日行く意味を本当に分かっているのかは怪しいところだが。

車で10分。
意外と近い。

近くに空き地があったためそこに車を停めるよう僕を出迎えた亜香里に指示された。

『初めて見た』
「あ、この格好?ネクタイしたのは高校生以来」
『ナルガクの制服ってネクタイだったんだ』
「中学高校の男はね」

僕の緊張を解こうとしてか、亜香里は全く関係ない話題を振ってくる。

亜香里の家はごく普通の日本家屋。
最近、地元の消防署に勤める兄夫婦と同居をするために増築したらしい。

亜香里が玄関のドアを開けると、お母さんが出迎えてくれた。

『いらっしゃい。お待ちしておりましたよ。寒いから早く入って』

膝を立てて俺にスリッパを用意してくれた。

通されたのは和室。
そこにはお父さんが待っていた。

『ようこそ、亜香里の父です』

市役所に勤務していると、亜香里から聞いている。
来月で定年らしい。

「安西徳文と申します」

程なく亜香里がお茶を、お母さんが茶菓子を持って和室に入って来た。
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