幸せにする刺客、幸せになる資格
『剪定作業は、終わりましたか?』

お父さんは市役所勤務とはいえ、さすが地元の人。
りんご農家がこの季節に何をやるのかは分かっているんだろうな。

「はい、昨日で終わりました」
『それなら良かった。蜂矢の爺さんがいるとはいえもう高齢だし、1人でやっているも同然でしょう?大変だったのではないかとお察しします』
「恐れ入ります」

お父さんはお茶をひと口飲んだ。
僕は思い切って自分から切り出した。

「本日こちらにお伺いしましたのは、娘さん・・・亜香里さんと、結婚を前提にお付き合いをさせていただきたく、お願いに上がった次第です。どうか、よろしくお願いいたします」

僕は正座したまま頭を下げた。
・・・土下座したような形。

『頭を上げてください、徳文くん』

突然名前で呼ばれた。
驚いたけど、ちょっと嬉しかった。

「はい」

少し角度を上げて、お父さんを見た。

『亜香里からいろいろ聞いているよ。親戚も頼る友人もいない中、蜂矢の爺さんたちだけを紹介されて、乳飲み子抱えてこの地に来たって話も全て』
「はい」
『安曇野に来て、何年になる?』
「この春で、丸8年になります」

お父さんの隣にお母さんが座った。
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