幸せにする刺客、幸せになる資格
『こんにちは、大和くん』
『亜香里ちゃん、いつからこのうちに来るの?』

子供は言うことがはっきりしている。
大人に存在する駆け引きとか、暗黙の了解とか、子供にはそれがないのがうらやましい。

『来月にはここに来ようかと思っているよ』
『お仕事は?』
『次の収穫の前には辞めるつもり』

亜香里はそう言うと、僕をじっと見た。

『摘果に間に合わなくてごめんね。でもなるべく有給消化したりして、行くようにするから』
「無理しなくていいよ」
『無理じゃないの。私がそうしたいの』

大和は僕と亜香里を交互に見ている。

『亜香里ちゃんが言っているんだからさぁ、お父さんも素直になろうよ』
「こら大和、生意気言うんじゃない」
『全く、カッコつけちゃってさ、本当は手伝って欲しいくせに』

大和は図星をついてきたので、ちょっと腹が立った。
小学校3年生にしては、しっかりしすぎ。

「大和、今日サッカーは?」
『休み。校庭が体育館である何かの大会のための駐車場代わりにされちゃうから』
「ふぅん」
『僕、遊びに行って来るね。亜香里ちゃん、お父さんと仲良くね』
『アハハハ。分かった』

亜香里は明るく大和を見送った。
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