幸せにする刺客、幸せになる資格
私が異動してきて最初の数回は、ノリさんは割と気さくに話してくれた。
"僕のことはノリでいいから"と言われて、私も"ノリさん"と呼ぶようになった。

ところが、ある時を境に、明らかにノリさんは私と距離を置くようになった。
"亜香里ちゃん"が"山形さん"になり、言葉も敬語に戻った。

どうしてそうなったのか、きっかけは分からない。
でも、多少なりとも、嫌われてしまったことは確か。

私はただ、貴方からその生きる力を盗み取りたいと思っただけなのに・・・
今日のお婆ちゃんの話を聞いて、さらにその気持ちが強くなった。

翌日。
私は用意した摘果用のハサミを持ってノリさんの自宅に伺った。

『こんにちは』

後ろから挨拶された、女性の声。
振り返ると、ショートカットの若い女性がパンツ姿とネルシャツで立っていた。

「あ、こんにちは。農協の山形と申します。ノリさん、は・・・」
『兄は今、洗濯物を干してますよ。私は妹の日下紗英(クサカ サエ)と言います。さっき、東京から来ました』
「妹さんですか。お兄様にはいつもお世話になってまして・・・もしかして摘果作業のお手伝いですか?」
『はい。素人がどれだけ出来るか分かりませんけど』

親に勘当されたノリさんが、妹さんとは交流していたんだ。
それだけで、少し自分のことのように安心した。
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