Only

「昨日。大地と輝ちゃんが廊下で話してるのを偶然」

「…何を？」

俺がそう訊くと、言いにくそうにしながら仁が話を始めた。

「大地がさ、輝ちゃんに“合宿、本当に大丈夫か？”って訊いてたんだ。…お前の行動の心配が大きいと思うけど。
そしたら輝ちゃん、“任せて”って言ってたんだけどな…どうもいつもの輝ちゃんじゃない気がしてさ。
俺の予想だけど、輝ちゃんはお前と大地に、気持ちが揺れてるんだと思う。輝ちゃんはきっと、大地との約束をきちんと守ろうとしてるんだ。
でもお前がグイグイくるから…」

「輝が困る、ってか」

「…ああ」


苦笑する仁。

…アイツを困らせるつもりは無いんだ。

ただもう一度、振り向いて欲しいだけ。

もう一度、笑って欲しいだけ……


「…ま、お前の気持ちは分からないでもないけど、大地達は付き合ってんだからよ。もう少し…考えた方が俺はいいと思うけどな」

仁の言ってる事は正しいんだと思う。

いや、正しいんだ。

でも俺は、自分の選んだ選択を間違ってはいないんだと思う。


“アイツのためなら”。

そう思えるのは、輝しかいない。