理想の都世知歩さんは、
――――うそ、だ。
聞き間違いだと思ったのに、神社を出たところの人混みに見えたのは、恋煩った人。
「――あこめ」
目の前まで走って来てくれた彼は、――都世地歩さんはもう一度、私の名を口にする。
泪が零れそうになった。
「おまえ俺の声忘れたの――――ってえ、何で泣いて」
一瞬珍しく動揺したかと思ったら、「兄ちゃん泣かないって言ってたけどなー」と呟いて首を傾げている。
背を屈めて、すぐ額を寄せる仕草に心臓が飛び跳ねた。
都世地歩さんに、会えたからだよってこっそり思う。
「元気?…って聞こうと思ってたけど、今は元気じゃないかな」
ははと表情を緩ませて、乱暴に頭を撫でられる。
都世地歩さんの、手だ。
「…げんきです。おひさしぶり、です」
「うん、ひさしぶり。見ないうちに太った?」
「え!?」
「うそだよ。あー暗いから見えないだけかも」
また笑っている。
何だか、こんなよく笑う人だったかな。
「衵が泣いてるのは、相変わらず分かる」
“暗くても。”