理想の都世知歩さんは、
こんな偶然ってあるのかと。
…待った。
少し話を戻そう。幾らなんでも偶然が過ぎる気がする。
そういえば冒頭、都世知歩さんが猫に話しかけているのを目撃した時。
『都世知歩さん、ゴミ』
『おいおい人をゴミ呼ばわり――ん?あ、今日資源も一緒だったか』
ゴミを手渡した。彼の手の先にいた猫を見つめた。
猫は私を見上げた。
『…カワイイ』
『お』
『かわいい!かわいい!!』
『声でか』
『寝言怖い都世知歩さんに言われたない!かわいい!!』
夏彦殿はどんと構えたブサ猫ちゃんだった。
『は、寝言?』
『…』
『夏彦、変な鳴き方するんだ。鳴いてみ』
しゃがんだ私についで都世知歩さんは夏彦殿にそう言ったが、夏彦殿は彼をじぃっと見上げただけで何も言わない。
『…いつもは鳴いてくれるじゃんか』
何も言わない。
一瞬、口を開いたが欠伸しただけだった。
あからさまに期待した都世知歩さんはどん底に落とされただけだった。
『夏彦。泣けよ』
『何か字が違『ぅぶなーー』
『あっ鳴『ブス彦ーーぉ』
目を輝かせた都世知歩さん。私も輝かせて夏彦殿を見たが、同時に一階からの声が彼の声に被った。二人して語尾を憚られる。
立ち上がって一階を覗くと、下に居たりっちゃんと目が合う。
チェックのシャツを着た彼の方が驚いた様子だった。