月光-ゲッコウ-
声もたてずに泣くあたしを見て、社長は何も言わずに静かに部屋を出た。
しばらくすると、また社長は部屋に入ってきた。
「千歳に会わせたい人がいる。」
そう言ってドアの方へと視線を向けた。
「久しぶりね、新堂さん。」
あ…そうさん。
社長が会わせたい人は麻生さんだった。
麻生さんが部屋に入ると、社長は部屋を出た。
気をつかってくれた?
麻生さんはベッドの横に座ると、悲しく微笑んだ。
「全部社長から聞いたわ。大丈夫?」
聞いたんだ…、妊娠の事も加雁さんの事も。
あたしは首を横にふった。
大丈夫なわけ…ない。
「あなたがずっと泣いてるって。自分じゃどうにもしてあげれないからって、社長に頼まれて来たの。」
社長に?
「加雁さんの所に行きたい?子供は生みたくない?」
行きたい…
行くはずだったんだもの。
けど、
行けない。
子供は犠牲にできない…
「社長はあなたを本当に愛してるのよ。どうしてもソバにおきたかった。その為に妊娠させて、好きな人と別れさせて、自分は奥さんと離婚もしないのに、無責任よね。」