キミのための声
教室の入り口まで来た時、
建吾くんはあたしの机の上に
置いたままのカバンを見て、
「まだ帰んないの?」
「あ、帰る帰るっ!」
そういえば、もう外は暗い。
カバンを取ってきて
昇降口に向かって
一緒に歩いていると、
「家どこなの?」
相変わらず
柔らかい表情で聞いてきた。
「あ、駅行くよ!」
すると建吾くんは、ふーん、
と納得したように頷いて、
「じゃあ駅まで送るよ。」
「え!?いや、いいよっ!
だって建吾くんバイトが…」
「駅前なんだ、バイト。
めっちゃ近いし送るよ」
「え、でもっ―――……」
「―――建吾」
誰も居ない廊下に、
よく響いた低い声。
ビクッと肩が震えて、
体が固まった。
怖くて見れない。
「……あれ、葵じゃん」
―――ドクンっ。
心臓が、重く跳ねた。
だめだ
さっき建吾くんと話して
気持ちに整理ついたはずなのに
やっぱり声聞いちゃうと
こんなに胸が締め付けられて
もう苦しいくらいで
逃げ出したくなる。
「……何してんの」
大して興味は無さそうな、
だけど一応聞いたような
葵くんの言葉は
誰に向けてなんだろう。
建吾くん?
それとも
あたし?
怖くて顔を上げられないから
分からない。
建吾くんがチラッとあたしを
見たのが分かったけど、
まだ固まったまんまのあたし。
「…ん?今までね、
愛梨沙ちゃんと話してた。」
何か、疑いを持たせるような言い方。
あたしはますます
葵くんを見ることが出来ずに、
ただ俯いている。
キュッ、と
上履きが廊下と
摩擦する音がして、それは
徐々にこちらに向かってくる。
心臓がうるさいくらいに跳ねて
おかしくなりそうだ。
いくら葵くんが昼休みのことを
怒っていないとしても
やっぱり……
うまく話せないよ。
本人を目の前にしたら、
さっきまで前向きに
なれていた考えも、
全部無くなったみたいで。
近付いてきた足音は、
あたしと建吾くんの目の前で
ピタッと止まった。