キミとの距離は1センチ
伊瀬が無言で連れて来たのは、非常階段の踊り場だった。

すぐそばに物品庫があったというのに、その狭い密室を選ばなかったのは……たぶん、彼なりの気遣いなのだろう。

普通に社員が使うものとは別にある階段だから、人はめったに通らない。まさに、込み入った話をするには絶好のスポットだ。


重たい扉が背後で閉まったのとほぼ同時に、少し先に立った伊瀬が、くるりとこちらを振り返った。



「……あのさ。子どもじゃないんだから、あの態度はないだろ」



呆れたような、伊瀬の声。

わたしはそれに、カチンと反感を覚える、けど。

言葉は返さず、うつむいたまま自分のパンプスのつま先を、ひたすら見つめた。



「まわりも、不審がってたぞ。『おまえらケンカでもしたのか』って」

「………」

「……俺たち、いい大人だろ。それなりにいろいろ経験してきてるんだから、もっとうまく立ち回って──」
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