キミとの距離は1センチ


◇ ◇ ◇


コンコン。ドアを軽く、2回ノックする。

すぐに中から聞き覚えのある声が飛んできて、わたしは手をかけていたノブを回した。



「久しぶり、珠綺ちゃん」

「……お久しぶりです、宇野さん」



ふわりと変わらない笑顔を向けてくれたその人に、わたしも笑みを返す。

金曜日の夜、わたしにメールを送って来たのは、今目の前にいる宇野さんだった。

内容は、月曜日──つまり今日の昼休みに、15階のミーティングルームに来て欲しいというもので。

すでに室内のパイプ椅子に座っていた彼に促され、わたしもその隣りに、腰をおろした。



「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって。ここの廊下、人通り少ないからさ」

「いえ、大丈夫です。……宇野さん、いよいよ来週から九州支社ですね」

「うん」



わたしの言葉に、宇野さんがうれしそうにうなずいた。

あたりまえだ。ずっとすきだった人のところに、行けるのだから。

宇野さんの様子に、わたしまでうれしくなってしまう。難しいのかもしれないけれど、どうか、彼らがうまくいけばいい。
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