キミとの距離は1センチ


◇ ◇ ◇


……うーんこれは、助け舟を出すべきかな。

わたしはハラハラしつつも、自分のデスクからその光景を密かに見つめる。



「ねぇ木下さん、ここ入ってもう2年目だよね? あなたはコピーして綴じるだけの会議資料すらまともに作れないの?」

「す、すみません……」



数メートル先にあるデスク横に立ちすくみ、小柄なからだをさらに小さくさせて謝罪しているのは、さなえちゃんだ。

そんな彼女をイラついたように腕を組んで見下ろすのは、簡単に折れてしまいそうなサーモンピンクのピンヒールに、上品なフリルがついた白ブラウス、タイトなベージュのスカート。

極めつけはしっかり巻かれたミルクティーブラウンのロングヘアーと、いかにも“男受けバッチリ”を体現したような女性、広告販促企画部の新庄さん。

だけどもいくら外見を完璧に仕上げても、そのしっかりメイクアップされた顔が不機嫌そうに歪んでいるとなると華やかさは半減だ。



「あなたが作った資料に落丁があったせいで、あたしが会議で恥かいたんだけど。どうしてくれるの?」



綺麗なネイルが施された右手の人差し指が、机に置かれた書類をコツコツと叩く。

静かな口調ではあるんだけど、その声音には明らかな威圧感。さなえちゃんはますますうつむき、また「すみません」と繰り返す。

オフィス内の社員たちは、何気ない風を装いながらその様子をうかがっていて。口は出さないものの、同情の眼差しを彼女に向けていた。
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