キミとの距離は1センチ
「す、みませ……」

「あのさ、『すみません』って繰り返してるばっかじゃなくて──」



さなえちゃんは涙こそ堪えているものの、うつむきがちで顔色も悪い。……こうして見ると、ふたりはまるでハムスターとコブラだ。


……やっぱり、このままにはしておけないよね。

そう思ったわたしが椅子から腰を浮かしかけたとき、ちょうど、出入口のドアが廊下側から開かれた。



「……なにこれ。どんな状況?」



オフィスに入って来るなり、中の異様な雰囲気を察して眉をひそめながらつぶやいたのは、たまたま席を外していた伊瀬だ。

近くにいた同僚が彼に事の顛末を耳打ちして、ますますその顔が険しくなる。



「あほくさ……」



言いながら、伊瀬は深くため息を吐くと。

なんのためらいも見せず、スタスタと渦中の女性ふたりに近付いて行く。



「木下さん」



伊瀬が名前を呼んだ瞬間、弾かれたようにさなえちゃんが顔をあげた。

その大きな瞳には、今にも決壊しそうなほどの涙が溜まっている。そんな彼女に、伊瀬は小さく微笑んだ。



「ごめんそれ、俺も手伝ったやつだよね? 何か不手際あった?」

「え……伊瀬さ……」



突然の彼の乱入に、さなえちゃんどころか新庄さんまでもが固まっている。

わたし含め、遠巻きに見ていた同僚たちは、固唾を飲んでその様子を見守った。
< 34 / 243 >

この作品をシェア

pagetop