キミとの距離は1センチ
きっちりマニュアル通りのお辞儀をする伊瀬に、若干引きつった笑みを返して。

新庄さんは、逃げるようにそそくさとオフィスを後にした。

ドアが閉まったとたん、それまで遠巻きに見ていた男共が、こぞってさなえちゃんに駆け寄って「大丈夫だった?」「新庄ってキツいとこあるよな」なんて今さらフォローしている。

……さっきまで完全にビビってたくせに、まったくゲンキンな人たちだ。



「い、伊瀬さん……っあの、ご迷惑かけてすみませんでした」

「いや、気にしなくていいよ」



ペコペコ頭を下げるさなえちゃんに軽く片手をあげて、伊瀬が自分のデスクに戻って来た。

さなえちゃんはまわりに群がる男共に苦笑を返しながら、新庄さんのようにオフィスを出て行く。

……きっと、今度は安心したせいで涙が出そうになってしまって。それを隠すためにお手洗いにでも行ったんだろうなあって、なんとなくそう思った。



「さっすが若、グッジョブ」

「……おまえまでそれを言うか」



にやりと笑ってパソコンの影から声をかけると、伊瀬は呆れたようにため息をつく。

彼がとったのは、おそらくこの場を収めるのに最善の方法だった。さなえちゃんじゃなくて、自分のせいにしちゃったんだもんね。

これでしばらく、新庄さんも大人しくなってくれるといいけど……。
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