キミとの距離は1センチ
「ねぇ。伊瀬って、恋してるの?」



ガタゴツガタンッ!! 自分のすぐそばでちょっと尋常じゃない音がしたから、わたしは驚いて目をまるくした。

オフィス内の同僚たちも、何事かとちらほらデスクから顔をあげている。

そしてわたしの視線の先では伊瀬が、自分のあごを両手でおさえながらうつむき、声にならない声をあげて悶えていた。



「だ、だいじょうぶ? 伊瀬……」



おろおろと両手をさまよわせながら訊ねてみれば、彼からはうめき声しか返ってこない。

このタイミングで訊いたのはまずかったかな、と、わたしは今さらながらしゅんと肩を落とした。


ちなみに、つい先ほど起こった一連の出来事を整理すると、こうだ。


①オフィスに戻ったら、伊瀬が頬杖をつきながらパソコンの画面を眺めていた

②わたし、他の人の視線が向いてないことを確認してから、伊瀬の傍らに中腰になる

③怪訝な顔をする伊瀬の耳元へ内緒話をするように片手をあて、小声でこっそり冒頭の言葉をささやく

④伊瀬、なぜか手のひらからあごを滑らせ、そのままキーボードやらデスクやらに顔面から激突

⑤わたしが突然の出来事にうろたえている間、伊瀬、痛みに悶える


……わたし、完全に話すタイミングミスった……。
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