新撰組異聞―鼻血ラプソディ
翡翠は芹沢の声と気配に体を捩り、微かに膝を沈ませる。

芹沢の刀は空を斬った。
土方、山南、原田の刀が猛然と、体勢を崩した芹沢に襲いかかる。

鋭い剣、それ以上に気迫が凄まじかった。

酔いで鈍り減じた体力を補うような気迫も、烈しく剣を交えるうち、次第に太刀筋が乱れる。

闇の中で動く芹沢の気配、乱れた息遣い、酒の匂いを感じ、翡翠は芹沢の腕を斬りつけた。

土方が続けて斬りつけ、足を取られた芹沢の胸に、翡翠が刀ごと飛び込む。

芹沢の体が、翡翠にのし掛かるように傾く。


「柳生の……強くなりなよ」


――芹沢……さん!?


翡翠は、傾く芹沢の重みと穏やかな声に、自分の刀が芹沢の胸を貫いていることに気づく。

荒い息遣いが耳元で聞こえ、翡翠の思考が停止する。

山南が「しっかりなさい」と、翡翠に促す。



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