私と彼の恋愛理論

「これ、よかったらどうぞ。」

彼女に会うために通っていたとはいえ、真面目に勉強していた俺は、彼女がカウンターを抜けて、こちらに向かってきていたことにも気づかなかった。

驚いて呆然としている俺に、彼女は続けた。


「いくら忙しくても、ご飯抜きは体に悪いですよ。」


ついつい集中してしまい、時間を忘れるのは俺の悪い癖だ。

どうせ夜は食べるし、耐えられないほどの空腹でもないから、面倒くさくて、ここにいるときは昼食は抜くことが多かった。

「このあたり官庁街で、コンビニもないし、土日はお店も開いてないですから。」

そう言って、俺の手に紙袋を乗せた。

「サンドイッチです。自分の分のついでに作ったので、どうぞ。」

手の中の紙袋が急に重さを増す。

手作りだって?

嘘だろ?

彼女が俺のことを気にかけてくれただけでも驚きなのに。

「迷惑でした?味は保証しませんけど、倒れるよりマシですよ。」

彼女は何も言わない俺に、笑いかける。

「いや、ありがとう。」

神様が、いや、彼女がくれたチャンスを逃してはいけない。

「今から、休憩?」

彼女は頷く。

「じゃあ、俺も休憩にする。」

彼女と食べた、手作りのBLTサンドは、文句の付けようがないくらい美味しかった。


土日の勤務にはだいたい弁当を持参するという彼女は、それから毎週ついでだと言って俺の分も作ってくれるようになった。

そのたびに、俺はお礼に彼女を夕食に誘った。



俺はそんなに鈍感ではない。

ついでと言いながらも、毎週自分のために弁当を作ってくる女が、自分に何の気もない訳がない。

それと同時に、弁当のお礼と言いながら、気のない女を夕食に誘う訳がないことに、彼女も気づいているだろう。


だけど、情けないことに、俺ははっきり口にだして彼女に告白することは出来なかった。

生まれてこの方、愛だの恋だのを語ったことなどない。


だから、ずるいと思ったけど、始まりの言葉は彼女に言わせたんだ。



俺は周りが思うよりずっと、ずるくて情けない男だ。
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