私と彼の恋愛理論
「吉川さん、家具屋から見積もりきましたけど…」
仕事中に声を掛けられた。
同じ設計部で働く後輩の岡田だった。
おそらくファックスで送られてきたであろう白い紙をパタパタさせながら、俺のデスクに寄ってくる。
「ああ、悪いな。ありがとう。」
確認中の図面から目を離さずに礼を言った。
今はちょっと手が放せそうにない。
岡田はそんな様子の俺を特に気にすることもない。
忙しい時にはいつものことだ。
「でも、これ、誰の部屋なんすか?部屋の家具丸ごと買うなんて、リッチっすね。」
彼女が家具屋に勤めているというので、岡田を伝手に見積もりを頼んでいた。
見積もりの紙を見ながら、岡田は話し続ける。
「…俺の部屋だけど?」
何か文句あるか。
俺は会話を早く終わらせたくて、本当のことを教える。
「えっ、吉川さん引っ越すんですか?」
ところが、会話は終わることなく、次の質問がやってくる。
軽くため息をついて口を開きかけるより先に、その回答が俺の頭上を飛び越えていった。
「そうだよ、こいつ、引っ越しするんだよ。」
その声の主は、2つ先輩の森永だった。
「…先輩が何で知ってるんですか。」
「そりゃ、休憩中にあんなに必死に住宅情報誌ばっかり読んでたらわかるだろ。」
大学のゼミも同じで、かれこれ10年近い付き合いの森永にはすべてお見通しのようだ。
面倒くさい男につかまったと観念して、渋々顔を上げる。
「で、尚樹、ついに彼女と同棲でもすんの?」
「ええ?吉川さん、そうなんですか?」
目の前には、ニヤニヤ笑った先輩と驚いている後輩の顔があった。
「…別にただ、会社の近くに引っ越すだけですよ。」
早く作業を再開したくて、できるだけそっけなく返す。
「またまた~。仕事以外に無頓着なお前が、特に理由もなく引っ越しするわけないじゃん。しかも、こんな広い部屋に。家具まで新調して。」
いつの間にか岡田が持っていた見積もりの図面を奪って、得意げに詮索してくる。
「…別にほっといてください。」
この人に捕まると、後々面倒くさい。これ以降は沈黙しようと決める。
「あらら、つれないね。尚樹くん、そんな態度だと、まどかちゃんに愛想尽かされちゃうよ。」
思いがけず出た恋人の名前に少し動揺する。
先輩に名前を教えた覚えはない。
「…何で、名前知ってるんですか。」
「この前廊下で電話してるの聞いちゃった~。」
そう言って、全く悪びれる様子もなく、ニヤリと笑う。
この人は、まったく…。
深いため息を付くと、俺は再び図面に目を落とす。
「お前、彼女にもあんなに素っ気ない口調なんだな。ほんとにそのうち振られるぞ。」
「俺、少しショックです。密かに吉川さんは彼女の前でだけは甘えん坊になるとか、勝手に妄想してました。」
勝手にわいわい盛り上がる先輩、後輩を一喝すべく、顔を上げる。
「俺の手元にあるこの仕事、今すぐ先輩にお返ししましょうか?」
俺の一言で松永先輩は顔色を変える。
「それと、岡田。余計な妄想する時間があるなら、もっと仕事回しても大丈夫そうだな。」
岡田は、回れ右をすると、そそくさと自分の作業スペースへと戻っていった。
仕事中に声を掛けられた。
同じ設計部で働く後輩の岡田だった。
おそらくファックスで送られてきたであろう白い紙をパタパタさせながら、俺のデスクに寄ってくる。
「ああ、悪いな。ありがとう。」
確認中の図面から目を離さずに礼を言った。
今はちょっと手が放せそうにない。
岡田はそんな様子の俺を特に気にすることもない。
忙しい時にはいつものことだ。
「でも、これ、誰の部屋なんすか?部屋の家具丸ごと買うなんて、リッチっすね。」
彼女が家具屋に勤めているというので、岡田を伝手に見積もりを頼んでいた。
見積もりの紙を見ながら、岡田は話し続ける。
「…俺の部屋だけど?」
何か文句あるか。
俺は会話を早く終わらせたくて、本当のことを教える。
「えっ、吉川さん引っ越すんですか?」
ところが、会話は終わることなく、次の質問がやってくる。
軽くため息をついて口を開きかけるより先に、その回答が俺の頭上を飛び越えていった。
「そうだよ、こいつ、引っ越しするんだよ。」
その声の主は、2つ先輩の森永だった。
「…先輩が何で知ってるんですか。」
「そりゃ、休憩中にあんなに必死に住宅情報誌ばっかり読んでたらわかるだろ。」
大学のゼミも同じで、かれこれ10年近い付き合いの森永にはすべてお見通しのようだ。
面倒くさい男につかまったと観念して、渋々顔を上げる。
「で、尚樹、ついに彼女と同棲でもすんの?」
「ええ?吉川さん、そうなんですか?」
目の前には、ニヤニヤ笑った先輩と驚いている後輩の顔があった。
「…別にただ、会社の近くに引っ越すだけですよ。」
早く作業を再開したくて、できるだけそっけなく返す。
「またまた~。仕事以外に無頓着なお前が、特に理由もなく引っ越しするわけないじゃん。しかも、こんな広い部屋に。家具まで新調して。」
いつの間にか岡田が持っていた見積もりの図面を奪って、得意げに詮索してくる。
「…別にほっといてください。」
この人に捕まると、後々面倒くさい。これ以降は沈黙しようと決める。
「あらら、つれないね。尚樹くん、そんな態度だと、まどかちゃんに愛想尽かされちゃうよ。」
思いがけず出た恋人の名前に少し動揺する。
先輩に名前を教えた覚えはない。
「…何で、名前知ってるんですか。」
「この前廊下で電話してるの聞いちゃった~。」
そう言って、全く悪びれる様子もなく、ニヤリと笑う。
この人は、まったく…。
深いため息を付くと、俺は再び図面に目を落とす。
「お前、彼女にもあんなに素っ気ない口調なんだな。ほんとにそのうち振られるぞ。」
「俺、少しショックです。密かに吉川さんは彼女の前でだけは甘えん坊になるとか、勝手に妄想してました。」
勝手にわいわい盛り上がる先輩、後輩を一喝すべく、顔を上げる。
「俺の手元にあるこの仕事、今すぐ先輩にお返ししましょうか?」
俺の一言で松永先輩は顔色を変える。
「それと、岡田。余計な妄想する時間があるなら、もっと仕事回しても大丈夫そうだな。」
岡田は、回れ右をすると、そそくさと自分の作業スペースへと戻っていった。