私と彼の恋愛理論
「ちゃんと話せたみたいで良かった。」

車を降りて吉川を見送った後、再び俊介が私の手を握った。

「友達の恋は修復できそうだしね。」

そう言って笑う俊介を思わず睨む。

「ちょっと、イヤホン…」

「してても、多少は聞こえるよ。」

そう悪びれず答える俊介に、怒ろうと思った次の瞬間。


「嘘。わざと聞いてたに決まってるじゃん。」

握った手を引き寄せられて、彼に抱きしめられていた。

「口説かれてないか、マジで心配した。」

「へ?」

突然の出来事に間抜けな声が出てしまう。

「年上の男がいいんでしょ?せっかくデート出来たのに、ここで取られてたまるかよ。」

彼は腕の力をさらに強めた。

「へ?彼は同い年だし、友達の彼氏だよ。」

「それは、話聞いてから分かったの。」

「でも、私…」

これ以上、なんと言ったらいいのか分からなかった。

まっすぐに見つめてくる視線が痛いほど、彼は真剣だった。

私は冷静な振りをしていたけれど、胸はもう飛び出しそうなほどどきどきしていた。

分かっていた。
私は彼に近付きすぎた。

それが、彼の策略なのか。
私の心の変化なのかは分からないけれど。

私はただ、彼の腕の中から抜け出す術を知らない。

この胸の振動を止める方法なんて、もっと分からない。
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