私と彼の恋愛理論
それから私は、聞かれるままに、必死に架空の恋人について彼に話をしていた。

自分でも、なんて馬鹿なことをしているのだろうと内心呆れていた。
でも、彼が私に優しい視線を向けるたび、私の口からはすんなりと嘘が出てくる。

こんなに上手に嘘が付けるなら、二年前にこうすれば良かったのかも知れない。


あなたなんて、愛してなかった。

回りくどい言い方などせずに、そう言ってしまえば、彼は二度と私と会おうなどと思わなかったことだろう。

でも、二年前は言えなかった。
それが嘘だとばれずに、言う自信がなかった。

その考えれば、この二年は私にとって必要な時間だったのかもしれないと思う。

彼とはもう会わない。
いや、もう会えない。
自分にまるで重い足かせをするみたいな嘘だった。


「今日は、ありがとう。」

食事を終えて、また夜の街を並んで歩く。

「いや、こちらこそ。御馳走様でした。」

互いにお礼を言い合うと、その後はどちらも口を開かずに沈黙だった。
送っていくとは言われていないが、紳士的な彼のことだ、駅まで付いて来るつもりなのだろう。

沈黙さえも心地よいと感じてしまっている自分にやや苦笑しながら、きっと最後になるであろう彼の隣をゆっくり噛みしめながら歩いた。

やがて、最寄りの駅に着く。

「じゃあ、ここで。元気でね。」

彼の顔を見上げて、最後の挨拶をする。最後だと思うと、目にこみ上げてくるものがある。
でも、笑顔で手を振るまで、もう少し涙を我慢しなくてはいけない。

「…翔子。」

そんな内心必死な私に対して、彼はいつもの優しい眼差しを向けてきた。

やがて口元が緩み始める。
私の大好きな彼の笑顔だ。

最後に見られて良かったと思った瞬間だった。




「翔子、もう嘘を付くのはおしまいにしよう。」

彼の口が静かにそう告げた。
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