私と彼の恋愛理論
ホテルの部屋に足を踏み入れるとき、今更ながら、躊躇した。

「待って、さすがに部屋は…あなたの恋人に悪いわ。」

ドアの前にとどまる私に、彼はまた微笑む。

「そうか、まずはその誤解を解いておかないと、話もできないな。」

片手でドアを開いたまま、彼が私の手を引く。

「大丈夫。僕に恋人はいないよ。」

「えっ、だってプレゼント…」

「ああ、あれ。君へのプレゼントだから。はい、どうぞ。」

「へっ?」

目の前に紙袋が差し出された瞬間、背後でドアが音を立てて閉じた。

「まったく。驚いてる間抜けな顔ですら、可愛くて困る。ああ、もちろん笑ってる顔が一番だけど。」

唖然と立ち尽くして、それを受け取らない私を前に、彼はやや乱暴に包装を解いて、買ったばかりのネックレスを取り出した。

「ただ君が隣にいてくれるだけで、僕はいつも癒されてて、僕のつまらない話を一生懸命聞いてくれる君を、たまらなく愛してた。」

私の首に手を回し、取り出したネックレスを付ける。

「どんなに嘘付きでも、僕は君なら許せるよ。 」

そのまま、彼の腕に引き寄せられて、気づけば抱きしめられていた。

「…騙したりして、ごめん。」

私の背中に回された彼の腕に、より一層力が込められる。

「翔子、僕は今でも君を愛してるよ。」

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