臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)
「康平、ボヤボヤしないの! すぐにディフェンスでしょ!」

 亜樹に言われて、康平はトボトボとディフェンスに戻る。朝のミーティングの通り、康平の守る場所は右サイド前衛である。

 三組女子バスケ部員の一人が、ゆっくりとドリブルをしながら康平に近づく。

 康平はプレーのミスよりも、審判にホイッスルを吹かれる事を心配していた。何か悪い事でもしたような気持ちになるからだ。

 ファウルを取られないようにと、相手が前に出る分康平は後ろに下がる。彼の目の前にいるショートボブの女子は、不審な顔をしてもう一度前に出た。それに合わせて再び康平が下がる。

「チョット康平!」

 後ろにいる亜樹が声を掛けた瞬間、ショートボブの女の子はそのままシュートをした。ボールはどこにもぶつからずにリングの中をすり抜ける。これで三組が四点差のリードになった。


 うなだれている康平に、長瀬がポーンと肩を叩いた。

「アハハ、この世の終わりみたいな顔すんなよ。これで試合が終わったわけじゃねぇんだからさ」
< 207 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop