恋愛事案は内密に
事務所をあとにする。

事務所を出ると、真新しい黒いスーツをきて、つやつやした黒髪を後ろでぎゅっとしばり、透き通るような肌を持つ女の子が今か、今かと廊下の椅子に腰かけていた。

事務所の入っている雑居ビルから出る。

昼の二時ということもあり、宅配のお兄さんぐらいしか見かけない。

面接試験はこれで何回目だろう。

きっと今回も茶色く薄っぺらい封筒に、採用は見送らせていただきますの簡単な文字が並ぶ冷たい印刷物が送られてくることだろう。

新しいことをやりたい。

嘘だ。

わかっていても、私にできることはないか、探してしまう。

空は厚い灰色の雲が垂れこめている。

風がやみ、湿った空気が肌にまとわりつく。

右頬にしずくが一粒落ちた。

左頬にももう一粒。

私だって、泣きたいよ。

しずくをぬぐい去ると、雑居ビルからすぐの商店街アーケードの中に入った。

アーケード内も平日の昼間のけだるい空気が流れ込んでいた。

店先では手押し車を横に携えたおばあちゃんと店主らしいおじいさんが、木の長椅子に腰かけて話をしている。
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