世界でいちばん、大キライ。
麻美が鍵を開け、ふたりで玄関に無言で足を踏み入れる。
先に靴を脱いであがった麻美が、廊下でぴたりと足を止めて、ぽつりと尋ねた。

「あの人と、付き合うの……?」

麻美らしからぬしおらしい声に、久志は不意打ちを食らった。
いつも、〝さみしい〟とか〝悲しい〟とか、そういう感情を向けられることなんてなかっただろうし、あったとしても気付かなかった。

けれど、今、それに似たようなものを感じた気がして、久志は言葉を探りながら麻美の背中を見つめる。

「麻美……。そんなわけないだろ。大体、姉貴とも約束したし。お前の面倒ちゃんと見るって。まぁ、だからオレはそれどころじゃ」
「そんなの。あたしを一生面倒見てくれるつもりで言ったことでもないでしょ」

か弱い一面を出したのかと思えば、いつもとほとんど変わらないツンとした口調。
麻美の感情の起伏について行けず、僅かに混乱する久志に未だ背を向けたままの麻美はぽつりと漏らした。

「ただの〝子守〟でしょ?」

拗ねたような、その小さな背中越しに言われた真意がまだ掴めない。

麻美は昔から、たまにしか会わないのに懐いてきていた。
だから、親元を離れて一年間だけ、と言われたときには、多少悩むところはあったが、結局了承した。
それは、根本的なこと……麻美となら、うまく共同生活が出来ると思ったからだ。

けれど、3か月、半年……と月日を重ねるとともに、麻美が今までのようにじゃれ合うように近寄らなくなっていった。
嫌われたのかもしれないし、年齢的な反抗期の一種なのだろう、とそこまで深く考えなかった。

ただ、それでも、毎日顔を合わせるわけだから、気にしないようにしていたところで、実際には、この間桃花に吐露していたような思いを抱えていた。

あれだけ懐いてくれていた姪が離れていくのは、自分に興味がなくなったから……必要なくなったからだろう、と燻っていた思い。

だけど、それは違う、と否定したのが桃花だった。
桃花の言葉は気を遣ったものからかと思っていたけれど、今、目の前の麻美を見ると――。
< 103 / 214 >

この作品をシェア

pagetop