世界でいちばん、大キライ。
ペコッと頭を下げて笑顔を浮かべると、そのまま桃花は表のドアから店を出た。
昼下がりの午後。当然まだ空は明るい。
軽く仰ぐように水色の空を見て、ふ、と思い返されたのは、ソッジョルノの窓側の席。そこに座っていた、久志と水野の姿だ。

「……はぁ」

無意識に零れた溜め息と同時に今度は俯くと、ポン、と肩に手を置かれて飛び上がる。
その重みや手の大きさの感覚は、女性のものではない気がして、余計に桃花は胸を跳ねあげた。

バッと振り返ると、桃花の視界に映ったのは――。

「えっ……ジョシュア、さん? ど、どうかしたんですか?」

笑って桃花を見下ろしているのは、黄金色の髪を風にそよがせたジョシュア。
桃花は、まさかジョシュアだとは微塵も思っていなかったために、虚を突かれた顔をしたまま彼を見上げる。

「『ジョシュ』でいいよ」
「え? あ、あの……」

まさか、呼び方を訂正させるためだけに呼び止めたわけではないだろう。
そう考えながらも、では本題は?と疑問符を頭に浮かべながら動揺した桃花に、ジョシュアはニコリと目尻を下げた。

「モモカ。オレ、もうしばらく日本(コッチ)にいることにしたから」
「あ、そ、そうなんですか?」
「ウン。だから、さっきの話。気持ちが固まったらすぐ連絡して? ナンバー教えとく」

そう言ったジョシュアは、すでに手にしていた名刺を桃花にスッと差し出す。
反射で受け取った桃花は、視線を落として心の中で読み上げる。

(【Café candyhouse】……なんか意外に可愛い名前のお店。【Joshua Daniel Miller】……本当にお店持ってるんだ)
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